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歩いたら休め

If the implementation is easy to explain, it may be a good idea.

【物理学 Advent Calendar】物理学の人が社会シミュレーションを手がけるときに気をつけてほしいこと

物理学 Advent Calendarの16日目です。

物理学(特に理論物理)を学んでいる人が、社会シミュレーションモデルやエージェント・ベース・モデルを使って社会科学に参入するとき、戸惑うことや気をつけるべきことについて簡単にまとめておきます。

最初はPython + numpyでらくらく物理シミュレーションって記事を書こうと思ったのですが、書き尽くされちゃってる気がしたので変えました。でもオススメです、Python

 

計算結果よりも、モデルの前提の議論のほうが100倍重要だ

少なくとも「社会」は膨大な変数が存在している系です。最初から、その中のすべての変数(例えば社会心理学的な要素)を全て組み込んだモデルを作ることは不可能です。つまり、どこかの段階で調べたい系の範囲や変数を制限する必要があり、どうしても恣意性が入ってしまいます。

つまり、「数理的にシミュレーションをした」ということより、「自分の調べたい社会現象に対して、膨大な変数の中のどの変数がクリティカルに効いているか」という議論のほうが重要です。

 

この点に対して社会科学系の研究者からの手痛い指摘がありました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/17/2/17_2_54/_pdf

社会科学者の目から見れば、モデル構築の前提や論理がナイーブであったり無知であったりするケースがしばしばある。理工系の研究者は、自分の社会的な生活常識にもとづいてモデルを構築すれば十分であると思っているかのようである。

 

逆に社会科学や人文科学出身の欠点は、どうしても曖昧な用語を使う傾向にあることです(ある面仕方ないことですが)。「それってモデルの上で考えるとどういうことなの?」「難しく言ってるけど"多数の無知"って用語と"アビリーンのパラドックス"って用語の意味って一緒じゃない?」と思うことも多々あります。まず、それをモデルの上でシンプルな形に整理すること自体にも意味はあります。

(少なくとも今のところ、)社会科学は何らかの「統一原理」を探すような学問ではないと思います。むしろ統計力学のように、多体系における複雑で多様な現象を、できるだけシンプルな近似で説明するべきでしょう。

 

シミュレーションの目的と、モデルの解像度を意識しよう

シミュレーションの目的には、「理解」と「予測」があります。

  • 理解:「なぜ利他的な行動は競争環境下でも生き残るのか」「なぜバブルは発生するのか」「なぜ人種や宗教による棲み分けは発生するのか」
  • 予測:「テーマパークの混雑状況を知らせることで、混雑がどの程度減少するのか」「電気自動車の充電設備をどこに配置したらいいのか」

このどちらを目的にするかで、必要なモデルの解像度が決まります。おそらく、一般的な物理学のモデルではこの二つを分けて考えることは少ない気がします。

「理解」を目的とする場合、様々な集団に共通する現象を説明するため、それらの共通要素のみを取り出したようなシンプルなモデルが望まれます。その定性的な性質(例えばヒステリシスのようなもの)を調べることで、社会現象の理解を進めます。

「予測」を目的とする場合、そのテーマパーク特有の変数(どこにアトラクションが配置されているのか、どの時間の入場者数が多いのか)などを、ガチガチにチューニングする必要があります。

詳しくは情報処理学会誌の『特集 マルチエージェントシミュレーション』にある、「マルチエージェントシミュレーションの基本設計」という記事を読んでください。鳥海不二夫先生と山本仁志先生が執筆されています。


情報学広場:情報処理学会電子図書館

 

社会科学とか人類学の本をいろいろ読もう

人文系の分野に数理モデルを用いた例は、意外に古くからあります。

この前、「社会シミュレーションやってる人って、Thomas Schellingの分居モデルは知ってるけど、レヴィ=ストロースの『親族の基本構造』(数学の群論を使って、部族の婚姻関係を解析した研究)を知らないよねー」って話になりました。これらの研究は、意外にもその後あまり発展していないようで、やり残されている部分がある気がします。

数理モデルやシミュレーションモデルで解析できることは残っているのに、そういうスキルのある人はなぜかTwitterのリツイートばっかり調べている印象です。

Webはデータを用いた実証研究しやすいのは分かりますが、そこで起こっている現象が、インターネット上のSNS特有の問題なのか、それとも社会一般に見られるもので、社会学で既に調べられている問題なのかという議論を見かけたことはほとんどありません。

 

『ネットワーク・大衆・マーケット』は神!

困ったらコレの索引を引けばだいたい解決します。

ネットワーク・大衆・マーケット ―現代社会の複雑な連結性についての推論―

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