親戚の結婚式で長時間移動するときに、ちょうどいいのでずっと読んでました。
R.P.ファインマンは1965年にJ.S.シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を授賞した天才的な物理学者である。こう書くと「理数系が苦手」な人は逃げ出したくなるかもしれないが、そんな人にこそ本書を手にとっていただきたい。
本書は20世紀を代表する天才物理学者の自伝ではない。R.P.ファインマンという人生を楽しむ天才から我々への贈りものである。
「ファインマンと聞いたとたんに思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの人間であったということ、それだけだ」といつも言っていた(下巻訳者あとがきより)。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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プログラマー的に面白かったのは以下のエピソード。
カード・カルト・サイエンス
この文化は物理学者リチャード・P・ファインマンのカリフォルニア工科大学での卒業式式辞で言及され、また彼の著書『ご冗談でしょう、ファインマンさん』に収録されたことでも知られる。この式辞でファインマンは、カーゴ・カルトの信者は外見上は正しく空港やヘッドセット、竹の「アンテナ」を作るが、飛行機は来ないと指摘した。ファインマンは、科学者もしばしばその愚に陥るが、そのような科学の形だけを真似ただけの、正直さに欠ける行為は「カーゴ・カルト・サイエンス」であり、尊敬にも支援にも値しないものだと主張した。
プログラマーが好きそうな概念(ポール・グレアムのエッセイとかにありそう)だなと思ったら、実際に「カーゴ・カルト・プログラミング」「カーゴ・カルト・ソフトウェア工学」のような概念があるそうです。
二人の金庫破り
また内容よりもその機密性にばかり気を使う上司が気に入らず、ある日重要機密書類の入ったキャビネットを趣味の金庫開けの技術で破ってみせた。その上司がキャビネットを新しいものに変えるとすぐさままた金庫破りを繰り返し、機密への固執に対する無意味さを逆手に取ってその上司をからかった。他にも無意味に時間をかける施設の入り口の検問に嫌気がさし、地元の労働者が出入りに使っていた金網の穴から短時間の間に何度も入っては同じ検問を内側から何度も出て警備の無意味さをからかったが、結局警備員に捕まってお説教をされている[6]。
こういうエピソードは『ハッカーズ』にも書いてました。MITの校風なのかもしれません。
ペンキを混ぜる
僕が好きなのはペンキの話である。ペンキ塗りと話をしていると、黄色を作るのには赤色と白色のペンキを混ぜればいい教えられる。光についても詳しいファインマンは、その場合はピンクができるはずだと主張したけれど、ペンキ塗りは主張を曲げない。近くの雑貨屋でペンキを買ってきたら見せてやるという。レストランの壁をどうぬれば客が入り、また清潔感を出せるかという話を聞き、ペンキ屋を「本物の男」とすっかり感心していたファインマンはペンキを買ってきて、混ぜられるのを見守っている。起るべき結果は分かっていると考えながらも、どこかで大きな「それでも何か未知のことがおこる可能性がある。」と期待に胸を膨らませながら。
ペンキはもちろん黄色にはならなかったのだが、ファインマンはこうした経験を経ても、なお同様の好奇心を持ち続けることができた男だったのだと思う。
下から見たロスアラモス
「コンピュータをいじったものなら誰でも知っている、いわゆるコンピュータ病」にハマったフランケル氏が出てきます。
三角関数表の計算にハマったのはプロジェクトリーダーのスタンレー・フランケルという男で、原爆開発のための計算をほったらかしにしたためリーダーを降ろされたようです*1。その後任がファインマンだったのでした。ファインマンによるとフランケルこそが「コンピュータ病患者第一号」だとか。
また、原爆の威力を目の当たりにして、「どうせ無駄になるのに、世間の工夫はどうして新しい橋を作っているんだ」のようにシニカルになっている様子も描かれています。
だが、ありがたいことに無駄になると思ってから、もう四〇年近くたつ。だから橋などを造るのが無駄だと思った僕は、まちがっていた。そしてあのように他の人たちが、どんどん前向きに建設していく分別があってよかったと、僕は喜んでいる。
書評ブログみたいになっているけどテックの話も書こうと思います。