Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks
この論文の話です。
読書日記: 読了: Kramer, Guillory, Hancock (2014) Facebook上での感情感染
Facebook、ユーザー約70万人のニュースフィードを操作した実験結果論文を発表 - ITmedia エンタープライズ
上の2つの記事が主な元ネタです。こちらも目を通しましょう。
けっこう話題になってると思いきや、身の回りに意外に知らない人が多いので一応自分でも。「Facebookのニュースフィードに表示される投稿が、ユーザーの投稿の感情に与える影響」を研究するために、69万人ものニュースフィードを操作していたことが論文を通じて明らかになっています。
Facebookのデータサイエンティスト、アダム・クレイマー氏ら3人によるこの論文は「ソーシャルネットワークにおける大規模情動感染に関する実験的証拠(Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks)」と題され、Facebookのニュースフィードに表示される投稿の感情がユーザーの投稿の感情に影響するかどうかを実験した結果がまとめられている
詳しい研究の詳細や考察は、以下のブログに詳しいです。しかも日本語。
“心理学に感情感染(emotional contagion)という話題があるけど、Facebook上のフィールド実験で再現しちゃいました、という研究” / “読書日記: 読了: Kramer, Guillory, Hancock …” http://t.co/zYfoAxgGF7
— 無限猿(id:sucrose)@7月病 (@Scaled_Wurm) June 30, 2014
結果: ポジティブ非表示群ではポジティブ語が減りネガティブ語が増え、ネガティブ非表示群ではネガティブ語が減りポジティブ語が増えた。効果量には差がなかった。
考察: (1)ニュースフィードの投稿は誰に向けたものというわけでもない。つまり感情感染は社会的相互作用ぬきでも起きる。(2)感情感染はテキスト情報だけでも起きる。(3)ある方向の投稿を非表示にしたことで逆向きの投稿が増えているんだから、これはただの模倣ではない。(4)ポジティブ投稿の非表示とネガティブ投稿の非表示の効果量が同じくらいだということは、内容だけの問題じゃないということだ(内容が効くんだったらネガティビティ・バイアスが出るはずだから)。(5)社会的比較か何かにより、他人のポジティブな投稿のせいでネガティブ感情が生じると予想する向きがあるが、結果はその逆だった。(6)効果量はすごく小さいけど (d=0.001くらいしかない!)、FBくらいの大きさの社会的ネットワークだと、公衆衛生に対するインパクトは馬鹿にならない。
当然ながら、これが倫理的にヤバイってけっこう話題になっていました。日本語メディアでも若干取り上げられています。
Facebook、ユーザー約70万人のニュースフィードを操作した実験結果論文を発表 http://t.co/h1sdfjbOi6
— ITmedia エンタープライズ (@itm_enterprise) June 28, 2014
ところで、この研究がいま話題になっているのは、内容というよりむしろ倫理的な側面からである。単に論文をさらっと読んだだけだからよくわかんないけど、確かに、うええ、同意取らずにこれやるの、そりゃあナイよ... という印象である。研究の目的よりも、友達の投稿の表示/非表示をその感情価で操作しちゃっているという点が気持ち悪い。しかし、それは結局Facebookの運営上の問題だから、共著者の大学の倫理委員会は通っちゃうだろうとも思う(実際、第三著者が所属するCornell大の委員会をパスしているらしい)。それに、仮にこういう論文を出せないようにしたところで、SNS事業者がひそかにこういう実験をやってサービスを最適化するのを止めるのは難しそうだ。ううむ。