最近、面白い本をいくつか見つけて読んでいました。
特にモースの『贈与論』に関係あるところで。とはいえ、まだまとまった文章は書けるほど消化できていないので、簡単に紹介していくだけにします。
本書『贈与論』Essais sur le donは、フランスの文化人類学者マルセル・モース(1872~1950)の著作だ。1925年に出版された。
本書でモースは、ポリネシアやメラネシアにおける贈与の体系や、ローマ法やゲルマン法といった古代法の分析をもとに、社会一般において贈与が果たし、また果たすべき役割について“道徳的”な観点から論じている。

- 作者: マルセル・モース,森山工
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/07/17
- メディア: 文庫
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プログラマーがだいすきな『伽藍とバザール』にも、「ハッカー文化は贈与の文化で、贈与による承認欲求ををイニシアティブにして品質の高いソフトウェアを開発できている」みたいな記述があります。以下、こちらの記事から引用します。
また,なぜ、そんな評価という無形のご褒美が効いたのか,訳者の山形浩生さんの 第6章 訳者あとがき には原著者のエリック・レイモンドさんがこう答えたとあります
Raymondの答・・・・・・みんな暇だから。暇で、物質的にはある程度充足しているから。 これは大事なポイントだ。そして、そういう物質的に充足した社会では、従来の市場による稀少資源の配分システムが機能しない。 そのとき、別の原理が動き出す。贈与によって名声を得るという原理だ。これがハッカーたちにフリーソフトを書かせる動機なのだ!
そして,この文化により,バグを作ってしまった人をDisるのではなく,バグを直した人が賞賛される文化になり,品質(機能も含め)が高まったとありました.
贈与論再考 人間はなぜ他者に与えるのか
『贈与論』に関する最近の論文集みたいな本です。
特に「ポトラッチは追証できておらず、モースが生きた限られた時代にだけ行われたものらしい」ということは初めて知りました。
特に次の2つが印象に残ってます。小山さんの内容については、後で彼女の著書を紹介するのでそちらで…。
- 毒と贈り物 / 近藤宏 著
- 〈借り〉を回すシステム / 小川さやか 著

- 作者: 岸上伸啓
- 出版社/メーカー: 臨川書店
- 発売日: 2016/08/02
- メディア: 単行本
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借りの哲学
『贈与論再考』に名前が出てきたので読みました。「贈与論などを下敷きにした道徳本」みたいな印象でした。
1542夜『借りの哲学』ナタリー・サルトゥー=ラジュ|松岡正剛の千夜千冊
この一文が印象に残っています。
私たちはちょうど反抗期をへて、自分ひとりでは生きていけないとわかった思春期の若者のようなものである。自分ひとりの力では生きていけず、かといって、これからの人生を《借り》をつくりっぱなしで生きていくこともできない。

- 作者: ナタリー・サルトゥー=ラジュ,國分功一郎(解説),高野優,小林重裕
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/02/27
- メディア: 単行本
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その日暮らしの人類学
先程も紹介した小川さやかさんの本です。読売オンラインでは次のように紹介されています。
著者はタンザニアの市場で自ら古着の行商人として働いたりしながら、この種のインフォーマルな、「その日暮らし」の生存戦略を研究してきた。そして、日本人の仕事観が世界の全体の中ではきわめて異様なものであることを示す。世界の大部分では安定した雇用はむしろ稀なものであり、ほとんどの人が雇用されずに自分の工夫で小規模なビジネスを展開して人生を構築している。そのような仕事では未来はまったく不確実だが、まさにそれゆえ、急速な成長が可能であり、状況の激変にも対処でき、リスクの分散もしやすくて、かえって強さと安定性があるというのだ。不確実であることは希望がないことと同義ではないという。
「働き方」や仕事していく中での「仲間意識」など、考えさせられることが多々ある内容でした。(後から来た人には気前よくノウハウを教えてしまう、というのはプログラマーにも通じるところかもしれません。)
また、ケニアのモバイル送金サービスである「エム・ペサ」についての考察も、非常に面白かったです。
M-PESAとは、簡単に言うと携帯電話で送金から出金・支払までなんでもできるモバイルマネーサービスです。ケニアでは公共料金や教育費などの支払いから、給料の受け取りまで今やM-PESAで賄われています。
にわかに信じがたい話ですが、M-PESAではなんとケニアのGDPの約5割を超える金額が動いています。
このサービスによって「気軽に親からの仕送りや、仲間うちでのお金の無心ができることになった」ことで、友人関係にも少なからぬ影響を与えているようです。同様の決済サービスを考えている人は、一度彼女の本を読むといいかもしれません。

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)
- 作者: 小川さやか
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/07/14
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マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史
日本の歴史を、経済の視点から解き明かそうという試んでいる本です。
もともとは『経済セミナー』に連載されたコラムが元になっており、きっちりとした経済史というよりは、それぞれの時代からトピックを抽出して、マーケットの発展を分析しようとしています。
250ページほどの本で律令制以来の日本の経済史を分析しているため、「広く、浅く」という面は否めないのですが、高校の歴史の教科書などと比べると、経済学に基づいた本質的な議論がなされていますし、各時代ごとにぶつ切りになるのではない、まとまった見通しが得られます。

- 作者: 横山和輝
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2016/01/20
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