社長さんがお薦めしてた本を読んでみましたのコーナーです。
うちの会社の社長さんは、あれだけいろいろな場所を飛び回っているのに、おそらくその合間にものすごい量の勉強もしていて、新しいネタを引っ張ってアレもしたいコレもしたいと言っているすごいバイタリティーの人です。少なくともヒラ社員の目から見るとそう見えます。
そんな社長さんは最近こういうこと言ってます。
※ワンパンマンのシワババ様の画像です。ワンパンマン面白いですよね。
しかし、私は普段「Ruby楽しいヤッター!」って生活に満足して不勉強なので、メーリスで回ってくる社長の話は難しく、あんまり理解できてません。 せめて話くらいはついていきたいと思い、祝日を使っておすすめしてた本を読んでみました。
- 作者: 中川寛子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/11/05
- メディア: 新書
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読んでみると、普段社長さんが「こういうことやりたい」って言ってることの元ネタというか、著者の中川寛子さんが言っていることをビジネスの立場で解決しようとするなら、ああいうことやりたがるよなーって感じの印象を受けました。
また、不動産業者はもちろん、Airbnbなどの新しい民泊サービス、地域活性を目指す地域、親から相続を受ける人へのアドバイスなど、住まいに関わる色々なステークホルダーの話が出てきます。
そのため、住まいに関わりのある人は、誰が読んでも勉強になる本だと思います。(「住まいに関わりのある人」って日本在住全員になりそうですが、それもおおげさではないです)
これから、各部を簡単に要約してみます。 3行でまとめた後、もうちょっと詳しい説明を書きます。
第1章 いずれは3軒に1軒が空き家? ー現状と発生のメカニズム
- 国の無策のせいで問題が先送りになった
- 金融機関に家の価値を査定する能力がないため、家を買っても資産として残らない
- 空き家問題は個別性が高いが、都市部と地方で大別すると理解しやすい
まず、国の方針に対する問題提起から始まります。住宅は不足していないのに新しく建て続けることを奨励し続けたり、経済的効果が高いため、問題を先送りにしたり、という話。また、登記制度の不備により、特に地方では持ち主不明の土地も多くあるという話も出ていました。
次に、日本特有の問題として、金融機関に家の価値を査定する能力がなく、新築時から家の価値が目減りし、20年後には0円となることが挙げられていまいた。 「海外では築年数に関わらず査定され、長く持つ建物を作り、丁寧に維持管理することが評価される。そのためアメリカ、ヨーロッパの都市部では古い建物が多い」という話が印象的でした。
この章の最後は、(個々の事例で問題は大きく異なるが)空き家が「ある」ことが問題となる都市部と、「なる」ことが問題の地方に分けると理解しやすいだろう、という話です。都市部では空き家の増加による治安の悪化などが問題となり、地方では空き家の増加=人口流出が問題だ、ということです。
最近だと「楽天で商品を購入し、空き家の住所を使って受け取って転売していた」というニュースもありましたね。
第2章 空き家活用を阻む4要因 ー立地、建物、所有者、相談先
- 立地の利便性は「通勤先」→「乗換駅」→「最寄り駅」の2〜3段階で考えられる
- 新しい活用方法に法令が追いついていない
- 空き家所有者の相談先がない(活用方法は増えたが、従来の不動産業者の守備範囲を超えている)
活用を考えるとき、まずは立地が問題になることが多いそうです。そのとき、立地の良さは「乗換駅が通勤先から近い」「(通勤先に行くための)乗換駅に最寄り駅が近い」「立地が最寄り駅から近い」という段階で考えると分かりやすいとか。
そのため例えば、「都心に近く、駅に遠い」場所は不利だそうです。自分で家を借りるときは穴場かも。
また、グループホーム等に転化するにしても、適法性が問題になることも多いようです。また、Airbnbの話題も出てました。
これは社長さんが言っていたことですが、宿泊施設を営む人たちの中には「我々は旅館業法を守って防災などの基準をクリアしているのに、個人が適当に運営しているような場所と競合にされると困る」という反発も強いそうです。
また、(後述するように)様々な新しい活用法が出ているのに、従来からの不動産業者にはノウハウがなく、空き家所有者が相談できる相手がいない。例えば、それらの業者が持っていない、建築、法律、インテリアの流行などの知識や、自社でできないことを実現するネットワークが必要となるはずだ、ということも問題として提起されています。
第3章 空き家活用3つのキーワード ー収益性、公益性、社会性
- カフェやシェアハウスなどに転換して、収益を上げるケースもある
- 商業的な利用が難しく、周囲にある程度の人口がある場合は、公共性の高い活用方法(グループホームなど)が可能
- 人口減少地域では空き家バンクなどの行政による活用もあるが、自治体の熱心さが明暗を分けている
「空き家活用には3つの大きな方向性がある」という趣旨です。第4〜6章で詳しく説明されています。
第4章 大都市・地方都市の一等地 ー収益性優先の活用
- 建物の特徴を活かした活用が重要
- 事業者がリノベーション費用を負担するような形態も
- 多くの人が関わることが活用を促進
立地が良ければ、空き家から収益を上げることも可能だが、「住宅は住宅、オフィスはオフィス」という常識に囚われずに、建物の特徴を活かした活用方法を個別で考えることの重要性を説いています。たくさんの事例が紹介されているので、詳しくは本書で読んでください。
一つだけ書いておくと、「風呂無し和室」の日本人には不人気な物件を、外国人向けのシェアハウスに転化した事例が印象的でした。海外の方はシャワーだけでOKだし、むしろ和室のほうが日本らしいと人気だそうです。あとは銭湯をボルダリングジムに改装した話とか。
「所有者が費用を負担しなければならないことが活用を妨げている」として、修繕・改修を行った後に、一定期間持ち主から借り上げて賃貸などで活用し、差額で収益を上げるような会社もあります。この本ではルーヴィスという会社が紹介されていました。
また、DIYリノベーションという流れもあるそうです。
「たからの庭」という会員制シェアアトリエの事例で、「多くの人が関わることが活用を促進することだ」という主張もされていました。
- 一戸建ては実際に手を付けるまで修繕費用が分からないが、多くの人でシェアすることでリスクも分散できる
- 各種講座やイベントで人のネットワークができ、情報のマッチングの問題を解決できることもある
というようなことが挙げられていました。
第5章 立地に難ありの都市部・一部農村 ー公益性優先の活用
この章では、高齢者福祉の話が多かったですね。 収益優先の事業よりも、土地にあった事業であることが求められるようです。 福祉と住宅製作は「ソフトとハード」の関係なのに、日本ではそれぞれを厚労省と国交省が別々に管轄している、という問題提起から始まります。
厚労省の「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」が紹介されています。 地域によって取り組みは様々で、成功事例として大分県豊後大野市の事例が挙げられています。
著者は「家の探し方などから推察するに、豊後大野市は人間関係が密なのだろう」「そういう地域で、かつ地域の協力が得られれば空き家の発掘・活用は成功に繋がりやすいのではないか」と述べています。
さらに、「一つの問題のために地域の幅広い人間が顔を合わせることは地域のためになる。 空き家解決のために知恵を出し合うことは、地域を変えることにもなりうる。 その人間関係は、他の問題や祭りの際にも生きるだろう」という主張もされていました。
他にも事例がいくつか紹介されています。
第6章 農村・地方都市 ー行政主体・社会性優先の活用
- 空き家活用=町おこし
- デザイン(=伝える努力)を怠ると、若い人からそっぽを向かれてしまう
- 農地と空き家をセットにした雲南市の事例
この章では、NPOも協力して成功している広島県尾道市と、行政主体の広島県雲南市の事例が主に紹介されています。 このような地域では、空き家を財産として活用できるかどうかが、地域の町おこし、つまり地域自体の将来の成否に大きく関わってきます。
尾道市の事例で印象だったのは、「デザインと愛情が成功の要因だ」という話。NPO代表の豊田雅子さんが、この町にこれだけ魅力があると解説している部分が素晴らしいです。
空襲を受けていないので、古い建物が残っており、二キロ四方の中心市街地に擬洋風、茶園(さえん)と呼ばれるお屋敷、バラック風と各時代の建物が集中しており、箱庭的。特に擬洋風の住宅が密集するエリアは圧巻です。
彼女のこのスタンスが周囲にも伝播して、必要な人たちを巻き込む力になっていると主張しています。
もう一つ、豊田さんはデザインを大事にしているそうです。
デザインの無いモノが世の中に出たら、若い人はそっぽを向く。だから金額は少なくても、どんなチラシでも、デザインはプロに依頼して作ってもらう。このあたりも役所にはないところでしょう
筆者は、デザインとは意図、意思を明確に発信するための「伝える努力」でもあり、行政はソフト部分を軽視しがちだと述べています。
(一気に個人的な話になりますが)プログラマーも、コマンドラインツールで動くからいいやとか、
他職種の人に伝える努力を怠りがちなところもあるのでちょっと自戒したいです。
でもSQLくらいは理解してほしいです
もう一つの広島県雲南市の事例は、きめ細やかな情報提供、そして農地と空き家をセットにした施策が紹介されていました。 言葉にすると簡単そうに見えましたが、実は、農地を管轄する行政の担当部署や法律は違うようで、協業できた例自体が少ないようです。
東京23区でも放置されている農園が多いようで、同じように「素人考えでは、市民農園と休憩・宿泊施設をセットにすると2つ空きが解消されるのでは」と筆者は述べていますが、なかなか協業は進まないようです。
第7章 空き家を発生させないために ー孤立死予備軍は空き家予備軍?
- 空き家を発生させないために、高齢者の孤立を防ぐ取り組みも行われている
- 学生と高齢者の空き家をマッチング
- 民間図書館として高齢者の集まる場所を作る
「空き家が放置されることで問題となるのなら、そおそも発生させないようにすればよいわけで、そのためには高齢者を孤立させないようなことが第一だ。」という章です。
一つ目の事例は、学生と高齢者の空き家をマッチングをしている街ing本郷。手頃な値段で大学の近くに住みたい学生と、一人暮らしの高齢者をマッチングしているNPO法人です。生活習慣の違いや、高齢者側の他人を家に住まわせることへの不安・抵抗感などに対処しながらプロジェクトを進めているようです。
もう一つの事例は、船橋で民間図書館を運営している情報ステーションというNPO法人。 活動を続ける中で、「引きこもりがちな高齢者を社会に引っ張りだす力がある」「高齢者が図書館の貸出のボランティアをすることで、感謝され、会話が生まれる機会を作れる」という効果もあることに気づいたそうです。
第8章 自分ごととしての空き家問題 ー買う時、残す時、受け取った時
将来にツケを残さないために、立場ごとにできることがまとめられています。各項のタイトルだけ載せておきます。
- 買う時……宣伝文句としての資産価値に騙されない
- 残す時……老前整理で家財だけでも処分
- 受け取った時……とりあえず放置は問題を悪化させる
さいごに
- 「こんなに空き家がある!大変だ!」という報道を尻目に、個々の事例で活用方法に知恵を絞る人たちがいる
- 効率だけを優先する考え方が問題の根源であり、今あるものに愛情を持ってうまく活用していくことが大事
- 空き家問題は個別性が高いので「連携」が必要
本書の『さいごに』に書かれている「過去のマイナスを将来のプラスに転じさせられる人がこれからの社会を作って行くのだと思う」という言葉に、筆者の主張がまとまっているように思います。